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「革命のファンファーレ」を鳴らし続けて

―新時代のネットワーク力を武器にするマルチタレントの発想の源泉

絵本作家・お笑い芸人

西野 亮廣さん

1999年,漫才コンビ「キングコング」を結成。フジテレビのバラエティー番組「はねるのトびら」で人気を集める。その後,自ら描いた絵本『えんとつ町のプペル』(幻冬舎)が35万部以上の大ヒット,さらにマーケティングについて綴った著書『革命のファンファーレ』(幻冬舎)も15万部を突破。絵本作家,お笑い芸人,著述家,Webサービス主宰など,マルチに活躍する。
HARA'S BEFORE
お笑い芸人として若くして名を成した西野亮廣さんが,ビジネス界で多方面にわたって活躍する姿にとても興味を覚えた。タレントが知名度を生かして商売をやる図はこれまでも数多く見てきたが,西野さんの取り組みにはそれ以上のものを感じていた。ビジネスセンスというか,マーケティング感覚というか,卓越した何かが成果を上げ続ける原動力である気がする。それを聞くことができたなら,きっと多くの経営者やビジネスパーソンの前進につながるはずだ。

会員制オンラインサロンがビジネスの軸

原 :今,世の中には「パラレルキャリア」という言葉が飛び交っていますが,西野さんご自身もマルチに活躍されています。現在,最もコミットメントが高い取り組みは何でしょうか。
西 野:圧倒的に時間を割いているのは,オンラインサロンです。今,僕は絵本や映画のほか,Web サービスやスナックなどを展開しているのですが,すべては会員制オンラインサロンの「西野亮廣エンタメ研究所」が軸になっています。
サロンのメンバーは,僕が考えるエンタメの未来や,現在とりかかっているプロジェクトについて,野次馬的に見届けることもできるし,クリエイターとして参加することもできます。

言ってしまえばファンクラブのようなものですが,違うのは一方通行ではなく双方向ということです。僕がメンバーに情報を与えることもあれば,その逆もあります。
月額1,000 円の課金制で,現在は約7,000名が参加しています。デザイナーさんやエンジニアさん,弁護士さんや建築家さんなど,さまざまな職業の人が集まっていて,ちょっとした町みたいです。こういう僕を面白がってくれるような人たちなので,メンバーは濃いですね(笑)。僕がサロン内のコメントを見て,「あぁ,この人,いい感じだな~」なんて思えば,直接,連絡して,「次のプロジェクト,一緒にやりませんか」と声をかけることもあります。そういう意味では,やんわりとしたつながりで,いろいろな会社が集まっている感じですね。
原 :松本さんにとって,大事にされているテーマはなんでしょうか。
松 本:会社の経営者の立場から言うと,順番は「ホラ・夢・実現」です。大ボラを吹いていると,それがいつか夢になる。そして,ドリカム(A Dream Comes True)という言葉があるように,夢は実現する可能性が出てきます。会社にとっての夢づくりが必要です。まず,大切なのはビジョンを持つことで,ビジョンと理念は分けないほうがいいですね。ただし,どちらか1つでいい。たくさん作っても,それは経営者の自己満足に過ぎません。夢の次は計画づくりです。

カルビーの経営者としての夢は,「超」がつくほどでなくてもよいので,一流企業になりたい。その定義は,売上1兆円の企業になることで,今後5~ 10 年で達成に向かいます。実現できたら夢じゃなくなるので,その次の新しい夢が出てくるでしょうね。
原 :その夢に向けて,今はどのくらいまで来ていますか。
松 本:夢の実現に向けては,ちょっとスピードが鈍ってきた。それを解決するには,新しい人たちがやるほうがいいんじゃないかと思います。野球でも,一人のピッチャーが速い球を投げていても,3,4回と繰り返すうちにスピードは落ちてきますよね。それよりは,人が代わったほうがいい。

最初に設定したゴールから行動を考える

原 :松本さんは日本を代表する“プロ経営者”と評判が高いですが,これまでの道のりを振り返っていかがでしたか。
松 本:プロ経営者というのは,勝手に人が言っているだけ。自分としては,まあまあかなって感じです(笑)。いつも自己評価は59 点,合格点ではない。そこそこ良い線まで行ったんじゃないの,という程度です。自分に満足したら終わり,まだ足りないんだという気持ちを持っていないといけない。
原 :常に1点は足りないということですね(笑)。松本さんの印象的なお言葉は「できるだけシンプルに考え実行する」というものでした。まさにご自身がなされてきたことですね。
松 本:難しいことは実行できません。すべてを簡素化しないと,実行は不可能です。僕は若い時の商社時代から,ずっと同じやり方です。複雑にするとわからなくなるんです。経営は算数です。数学じゃない。たいがい足し算と引き算だけで,掛け算や割り算はめったに出てこない。ましてや微分積分なんて出てきたためしはない(笑)。

シンプル化するコツは,行動できるようにすることでしょうね。何を言っても,最後はアクションなんです。アクションできるようにしておかないと,自分も人も動けません。僕の物事の考え方は,基本的に帰納的で,演繹的なことはしません。最終的なゴールは何か,それを達成するためにはどんなアクションをするか,そのためにはどんな仕組みをつくるか。そういっ
たシンプルな考え方が大事なのです。
原 :松本さんのお言葉に,「人間には15 年節目で転機がある」というのもありました。ご自身も伊藤忠商事,ジョンソン&ジョンソン(以下,J&J),そしてカルビーと,まさに転機を飛躍にされていらっしゃいます。特にJ&J,カルビーでは素晴らしく会社を成長させました。一貫してなされていたことはありますか。
松 本:すべては実験ですね。人生は一度きりなので,やれるときにやるしかない。失敗したらしたで,仕方がない。英語で言うと,「objective oriented」。つまり,ゴールを設定して,そこから行うべき行動を考えています。

カルビーで言うと,「世界一の食品会社になる」は大ボラです。ところが,それを具体的に考えると,まずは「1兆円企業になりたい」ということになる。これは,夢ですよね。1兆円企業になるためにはどうしたらいいかと考えたのが,売上を国内で5,000 億円・海外で5,000億円にするというゴール設定です。国内はスナック菓子で2,500 億円を目指し,フルグラを中心とした朝食商品で1,000 億円。ここまでは読めますが,残りの1,500 億円を何でやるかですね。
海外の5,000 億円は市場規模が大きいですから,スナックだけで達成できます。そう考えていくと,十分に実現が可能なんです。
原 :たしかに,そう思えます。そのやりかたをずっと続けてこられたのですか。
松 本:違います。J&Jのときは中央集権で社長をやっていましたから,会長であるカルビーとはやっぱり手法が異なってきます。カルビーはもともと創業者経営であり,創業者一族が優秀だったから,この会社が立ち上がれたんです。だけど,後の人がなかなか育たなかった。「これから先は,創業家だけで経営を続けていたら大きく成長しない」と一族の方が理解し,権限移譲を行ったんです。「まず,隗より始めよ」というわけです。会長である僕の権限は,すべて社長に委譲しました。社長はその下に,その下はその下に。でも,責任だけは僕に残っています。

会社にとって最も大事なものは利益

原 :カルビーの役員会では,まず会長のコミットメントから始まると聞きました。まさに責任を明確にされているんですね。
松 本:はい。たとえば,政治家はマニュフェストと称してコミットしますが,結果に対して責任を取った人はあまり聞いたことがない。でも,経営者はそれではいけない。コミットしたら責任が発生し,アカウンタブルでなければいけない。コミットメント&アカウンタビリティというのは,僕の経営の1丁目1番地です。そして,会社にとって最も大事なのは利益です。その次に売上。何兆円を売り上げても,赤字なら意味がない。

J&Jとカルビーでは,やってきたことは同じでも,スターティングポイントが違いました。それはもう会社に合わせるしかない。J&Jでは,私は後継者のことを考える必要もなかった。それだけ会社として成熟していたからです。ところが,私が入った当時のカルビーは売上1,000 億円そこそこで,借金もあったし,利益が上がっていなかった。でも,良い会社だから,成長できるはず。その会社のポテンシャルに気づいている人が,当時はいなかった。

そこに気づいたから,成長できました。成長して儲かったら,会社は何でもできます。でも,
儲からなかったら何にもできない。社員の給料も,配当も,社会貢献もできない。経営なんて
算数の世界ですから,簡単な理屈ですよ(笑)。
原 :でも,理屈はわかっても,なかなかできないんですよね(笑)。
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松 本:理屈は簡単ですが,実行は簡単とは言っていません。理屈を簡単にしておかないと実行できないから,簡単にしているだけです。理屈をやさしくすれば,うまくいく可能性は高い。
会長の職を受ける前に,まずコーポレート・ガバナンスはちゃんとやるということは言いました。   
あと,大事なことはコストですね。当時はコストを下げる意識が低かった。カルビーは当時も良い会社でしたが,当時の日本の大企業によくあった「別に儲けなくてもいい」という考え方でした。それでは世界と戦えません。今後,日本は人口が減り高齢者が増え,大きな成長を求めることが難しいんです。この国だけでは,ビジネスはできません。

世界には見本になる良い会社があります。ネスレは世界最大の食品会社であり,売上11 兆円規模ですが,本社はスイスにあります。スイスの人口は700 万人ほどですが,その国の会社が世界で一番ですよ。それが可能なのは,外を向いているからです。
だから,カルビーも外を向きます。日本は1億2,600 万人,世界は70 億人超。日本の外に全人類の98%が住んでいるのだから,そこで戦わないといけませんが,まだ力が足りない。
でも,カルビーには商品という強みがあります。商品については,僕は何も貢献していません。
創業者とその息子さんたちを含む,今まで会社を作ってきた先人の力です。
原 :そういうポテンシャルのある会社が,この国には多い気がしますね。

会社というのは魅力的な人を作る場である

原 :以前のお話では,優れた人を生み出すのが会社の存在意義だとおっしゃっていましたね。
松 本:最も大事なのは,やはり「人」です。優秀な人を外から採用する手もないわけではないけれど,中にも人がいるんだから,その人を成長させたほうがいい。会社というのは,魅力的な人をつくる場なんです。ところが,多くの会社が人をダメにしてしまう。人が育つ環境や制度を作ってあげなければならない。その一つとして,残業の廃止ですね。
原 :松本さんの思う魅力的な人とは,どのような人のことでしょうか。
松 本:やはり,結果を出せる人。人から好かれたり尊敬されたりする人。そういう魅力を持っていないと,ダメですよね。知識も経験も実績もなく,遊んでばかりいるような人は魅力的だとは言えません。勉強して教養をつけることは大事です。
これはずっと言い続けていることですが,「人は買いたいものを買うんじゃない,買いたい人から買うんだ」ということです。「あの人から買いたい」と思われる人になれ,と言っています。
原 :また,女性活躍の代表企業といえば,カルビーという印象があります。女性活躍推進に注力されたのは,やはりポテンシャルを感じてのことですか。
松 本:男性も女性も能力は同じです。同じなんだから一緒に仕事をやればいい。会社が成長するためには,それが当たり前です。
誰もエンジンの片方が止まっている飛行機には乗りません。
ある女性を役員に登用した時,その役員には毎日16 時には帰宅するように指示しました。
トップが率先して環境と制度を作ることが大事なんです。頭がカタい人たちはなかなか変えたがらないけど,制度自体を変えるのが一番いい。一人,代表選手が現れると,後続が引っ張られますよね。だから,トップが女性になると大きく変わるかもしれない。日本は,特に女性のエグゼクティブが少ないから,カルビーでは早めに女性を執行役員に上げています。
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ダイバーシティでコーポレート・イメージをアップ

原 :売上・利益の向上,生産性アップ,海外展開,ダイバーシティ推進など,伊藤秀二社長と共にカルビーで多彩な成果を出されましたが,ご自身で最も手ごたえを感じていらっしゃることは何ですか。
松 本:ダイバーシティですかね。比較の問題ですが,他の会社があまりやっていないので目立ちます。カルビーの商品に限らず,物を買うのは女性が多い。男が稼いで女が買うという流れが主流で,買うものを決めることにおいては女性が中心なんです。カルビー社内の女性だけじゃなく,一般女性も味方にしないとビジネスはできない。ダイバーシティについては,いろんな賞もいただいたけれど,カルビーのコーポレート・イメージを上げることができたと思っています。

実はここ2年,経営にはあまり口出しをしていません。伊藤さんがやってくれていますから。僕は広報課長のようなものです(笑)。カルビーというコーポレート・イメージを上げることは大事です。コーポレート・イメージは無形資産ですから,商品だけでなく,それ以外の行動やアクティビティを通じて上げることが大事なのです。
原 :私はずっと人材の仕事をやってきましたが,コーポレート・イメージが変わると,来る人も変わり,企業も変わりますよね。
松 本:そうですね。イメージアップの重要性は常に意識しており,「広報やIRはすべてのステークホルダーとの重要な窓口である」と,ずっと言い続けてきました。だから,時間がなければ仕方がないけれど,原則,取材や講演は断らないのです。

外科医を増やすためのNPOも設立

原 :会社経営とは別に,日本の外科医を増やすためにNPOを設立されていると伺いました。
松 本:伊藤忠商事での後半6年以来,医療関連のことに従事しました。外科関係が比較的に多かった。その後,J&Jに移った時も最初は外科関係でした。そこで,近年は外科医に若い人のなり手が少ないと知りました。労働環境が劣悪,待遇もよくない,仕事のオン・オフが明確でない,何か起きたら騒ぎになり責任を押しつけられる――と割に合わないからです。そんな環境の中で,若い人がやりたいと思うわけはない。そこを何とか変えようと,「特定非営利活動法人 日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」を設立しました。日本の著名な外科医は,ほとんど入ってくれましたし,企業やメディアも協力してくれています。
原 :手ごたえはいかがでしょうか。
松 本:なかなかいいと思っていますが,実際の外科医の数は横ばいなので,まだまだです。草の根運動ですから,僕がやるくらいで世の中が変わることはないんです。でも,診療報酬が良くないのはダメなので,中央社会保険医療協議会で委員もしていたこともあり,関係各所に働きかけて,そこは随分と改善しました。

正しいことを正しく

原 :最後に,松本さんの人生におけるテーマは何でしょうか。
松 本:特に何かあるわけではないですが,人に聞かれたら「正しいことを正しく」と答えています。正しいことだけれど,それをやらないというのはやめたほうがいい。生きていると何かの規制やルール,しがらみがありますが,だからこそやらないといけない。会社のルールや就業規則は誰かが決めたもの。そういったものは自分たちで正したほうがいい。何が正しいかを議論したうえで,正しいと思うことを実行せよ,ということです。
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おかしなルールは無視していきます。先ほど出てきた女性役員の話ですが,本当は16 時に帰るのは就業規則的には違反です。でも,破ったほうがいい。今,彼女は在宅勤務が中心です。在宅でやろうが,喫茶店でやろうが,会社が求めているのは結果です。だから,成果さえあげてくれれば何も言うことはないのです。理屈から言うと,今のカルビーの就業制度では1年に1回も会社に来なくていい。僕はプラグマティスト,超現実主義者です。団塊世代はそんな人が多いですが,そうじゃないと生きていけなかったと思います(笑)。
HARA'S AFTER
誰もが認めるプロ中のプロ経営者,松本さんのお話は明確で力強く,プラスのエネルギーに満ちている。行動や経験に裏打ちされた説得力があり,考え抜かれた深さがある。まさに名言集のようなインタビューであった。私が定義するプロフェッショナルとは,「結果にこだわ,必ず結果を出す人たち」である。でも,世の中には結果へのこだわりが弱く,大した結果を出せない人が多い(自分も含め)。結果へのこだわりや責任感が強いから,結果を出すことができると,今さらながら感じた。会社にとっては利益が一番大事という話も出たが,私も経営者として激しく同意したい。経営努力の結果として生み出した利益こそが,会社の価値創出の源である。それを使ってこそ,社員のため,会社のため,顧客のため,社会のための投資ができる。そして,その投資が未来を創る原動力となる。本誌が世に出ると間もなく,松本会長のカルビーでのご活躍は一区切りつくが,その後にどのようなキャリアを積まれるのだろうか。人生100 年時代のお手本として,いつまでもご活躍いただきたい方である。

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